(うちなぁ点描 第301回 週間かふう Vol.356  2012年7月27日 掲載)

文と絵 平良 和繁 TAIRA KAZUSHIGE

曲線を描く城壁が印象的

糸を天井に釘などで固定。その糸におもりを吊りした(逆吊り実験) 逆さま(上下反転)から見ると建築家ガウディの代表作 サグラダ・ファミリア聖堂のキリスト降誕の塔(4本)のかたちになります。

近頃は何かと忙しく、土日もパタパタ過ごす日が続いていましたが、先日久しぶりにのんびりと休日を過ごすことができたので、昼過ぎに急に“そうだドライブに行こう!”と思い立ち、服を着替え財布だけを持って、中部の読谷村方面へ出かけることにしました。

いろいろなお店巡りしていると、そういえばまだ、座喜味城跡は見たことがなかったのを思い出し、ちょっと立ち寄ることに。学生の頃は県内各地のグスクを見て回ったのですが、最近は見る機会がなかったので、駐車場からグスクまでの道のりをなんだかワクワクしながら楽しく歩きました。だんだんグスクが見えてきて、いよいよ入口のアーチ門をくぐると、そびえ立つ城壁に圧倒されました。城壁の石垣の積み方も特徴的ですが、私がグスクで一番目を引いたのは、やはり城壁の曲線の美しさです。この曲線の美しさにみとれていると、スペインのバルセロナを旅行した時に、印象に残った建築家ガウディが設計した共同住宅、カサ・ミラ最上階の展示室で見た「フニクラ」を思い出しました。

フニクラとはスペインの建築家ガウディが独特の実験によって得た理想的な曲線(かたち)を称した言葉です。糸の両端を固定して吊るすと下向きに逆アーチ(曲線)ができます。ガウディはこのアーチにかかる力、アーチ自体の重さを計算し、糸をいくつかに等分しておもり(構造上の重さ)を下げる実験「逆吊り実験」を繰り返し行いました。

この逆吊り実験のアーチを逆転(上下反転)すれば、力学的に安定した理想的な曲線(かたち)が得られます。このアーチの曲線はガウディの多くの作品に採用され、特に有名なサグラダ・ファミリア聖堂の塔やコロニアル・グエル教会の屋根の曲線などの作品に見ることができます。

この曲線は科学的な実験を繰り返して求めていますが、地球の重力から曲線を導き出し、重力に逆らわず自然の流れに任せてかたち造られています。ガウディは他に自然の植物の茎の断面を建物の柱に応用し、自然からも多くの理想の曲線(かたち)を導き出し、建築に反映しています。

ガウディの建築は一見、特異な建築に見えますが、なぜかバルセロナの街並みと一体となり自然と街に溶け込んでいたのを思い出します。

ここ沖縄のグスク城壁の曲線も首里城初め多くのグスクにみられます。この城壁の曲線がかたち造られたのは沖縄の地理的条件も理由の一つとされています。沖縄本島の地形は平坦地が少なく、起状の連続した丘陵的地形が多いため、グスクも丘陵的地形の場所に多く建てられました。このような立地から整形の平地はとりにくく、経済的な面もあり、地形に対応しながら地盤の強度も考慮しつつ、曲線の城壁が造られたと考えられます。

この城壁の曲線もガウディのフニクラも自然やその地域の特質から生まれたかたちをそのまま反映しているように思われます。

沖縄各地のグスクや建築巡りをしていた頃に、あまり詳しくは覚えていませんが、とある建築施設の案内の方が話してくださったことを思い出しました。「昔、グスクの主人按司が城壁はなぜ、曲線なのかと家臣に問われ答えたそうです。人間関係と一緒で尖っていてはダメだ、曲線のように人とのつながりを緩やかなに結びつけるものでなければならない。城壁も同じで緩やかに曲線を描き、自然に対して尖ってはいけない」と答えたそうです。

このお話が実話かは、私にはわかりませんが、グスクを眺めていると、なんとなく、曲線の城壁からこの言葉が伝わり、感じ取れたような気がしました。