(うちなぁ点描 第294回 週間かふう Vol.348  2012年6月1日 掲載)

文と絵 平良 和繁 TAIRA KAZUSHIGE

フィレンツェのヴェッキオ宮殿

 私は数十年前に、イタリアのフィレンツェに留学しました。特に「海外留学をしたい!」という思いがあったわけではないのですが、留学前年のヨーロッパ旅行をきっかけに、考えるようになりました。

 当時、美術学校に通っていたので美術、建築見学を中心に、フランス、スイス、ドイツ他、イタリアではベネチア、フィレンツェ、ローマを巡りました。

 その中でも特に、イタリアのローマ時代の建築には圧倒され、ミケランジェロなどの中世美術を目の当りにして心惹かれ、たまたま入ったお菓子店のDOLCE(ドルチェ お菓子の意)も美味しく、「食べ物もうまい、このイタリアの地で美術、建築を学びたい!」という思いが日に日に強くなっていきました。

 イタリアの中でも、中世美術ルネサンス発祥地のフィレンツェに注目。イタリア中央に位置していることもあり、ここを居住地に留学することを決意しました。

 そして決起通り翌年、イタリア留学へ出発!旅行も兼ねてロンドン経由でヨーロッパ入りしました。

 私が留学した時期はイギリスに入国する外国人旅行者は、帰りの航空チケットを提示しないと入国できないと聞かされていたので、ドキドキしながらロンドンの空港で入国時にパスポートを提示すると案の定、英語で「帰りの航空チケットは?」と聞かれ、イタリア語も片言の上、英語も不得意な私は[五カ国語会話辞典]を見せて必死に説明し、パスポートの就学ビザを提示して、やっとのことで留学生と理解してもらい入国許可となりました。

 その際、入国審査官に「勉強がんばってね」と声をかけられたことが、留学中の励みになったことを今でも覚えています。ヨーロッパ各国を旅行し学校始業数日前にフィレンツェに到着。いよいよイタリア留学がスタートです。

 最初は授業についていくのが精一杯で大変でしたが、1ヶ月経つ頃にはだんだん慣れてきて、フィレンツェの街を散策し、話す、聞く、テレビを見るなど、日常のささいなこと全てが、このイタリアを学ぶことになり、毎日が新鮮でした。

 ただ、この国のシエスタ(昼休み)の制度がなんとものんびりしていると感じ、私は東京暮らしが長かったせいか、「シエスタを何時間も過ごすイタリア人は、いつ働いているのか?」と疑問に思いました。

 留学前に立ち寄ったスペインにもシエスタがあり、同じラテン系の国はのんびり屋さんが多く、働くのはそっち抜けで、遊び優先で生活を送っているようにしか最初は思えませんでした。

 ところが、それからさらに1ヶ月ほど経つと、考えが一変。イタリアの学校や仕事始めは朝早く、午前中は仕事(勉強)、午後の昼食後、バール(軽食喫茶店)などでそのままシエスタ、そのあと仕事をする。 一日を[仕事、休む、仕事、帰る(家族団欒など)]というメリハリのある生活ができ、心に“ゆとり”ある生活を送っていることに気づいたのです。

 その時、この遠い異国に来たのに、なぜか故郷・沖縄の生活を思い出しました。沖縄の生活に似ているなと感じたからです。沖縄には独特の時間感覚があり、それを「ウチナータイム」とマイナス面でとらえることが多いと思いますが、うまく時間を過ごせば、ここ沖縄なら、イタリアのようなゆとりある生活を送れると感じました。

 東京で暮らしていた頃は、目まぐるしく変わる情勢に振り回されながら生活を送り、「ゆとり」を感じる事は少なかったと思います。この沖縄的時間感覚を、有意義に過ごせれば、この沖縄が、ゆとりある生活を過ごすための、「ゆとり先進国」の見本となるのではと感じました。