(うちなぁ点描 第319回 週間かふう Vol.377  2012年12月21日 掲載)

文と絵 平良 和繁 TAIRA KAZUSHIGE

屋富祖の家のコンセプトスケッチです。

・精神の軸(東方、庭、和室、仏壇、水の坪庭)

・生活の軸(リビング、キッチン)

・生活の水の軸(洗面室、浴室)

3つの軸を設けて、沖縄の精神性を内包した建築空間を求めて設計しました。

『建築は設計をする建築家の”モノ”ではない』。この事を前提に、私は紙の上に鉛筆を走らせ設計に入ります。建築はそこに住む人、利用する人、関わりのある物のために存在する空間であり、建築家のためだけには存在しません。しかし、建築は建築家の想い(デザイン)が反映されて形作られるのも事実で、私の設計には少なからず私の想いが込められています。その一例である2005年に設計した”屋富祖の家”を紹介します。

この住宅の設計に入る前に、まず建築地である浦添市屋富祖の歴史をひも解くことから始めました。この地は戦前、屋富祖集落の砂糖の精製小屋があった場所で、敷地の南西には芋洗い場の溜め池があった事がわかりました。池があった場所は現在でも湿気や軟弱地盤などの不安があったため、その場を水場(水鉢)とした坪庭として再現し、「水場(水鉢)=神聖な場所」と捉えて、暮らしや精神(神聖)も合致した建築空間を作ろうと考え、このコンセプトを元に3つの軸を設けました。
  1つ目は東西を通る?精神の軸?です。東の彼方にあるとされる豊穣や生命の源であり、神界とも言われる「ミルヤ・カナヤ」(ニライカナイの語源)を想像し、東側を開かれた空間とし、芋洗い場があった場所には坪庭(水)を配置して、かつてあった「水」を生命の源として表現。アプローチ、庭、和室(精神空間)、仏壇、水(坪庭)を精神の軸として表現しました。
  2つ目は精神の軸と平行に、”生活の軸”を設けて、キッチン、リビングなどを配置。3つ目は南北に通った浴室、洗面室、坪庭(水)を”生活の水の軸”として表現し、精神の軸と生活の軸を、坪庭にある水(鉢)を起点として「精神と生活の中心」と捉えました。この3つの軸を中心に建築を造り上げ、現代的な空間に機能的にも配慮しつつ、沖縄の精神性を内包した建築空間を求めて設計しました。

このように建築家の想いも込め、この住宅に住む人の想いも込められている住宅でなければ、住宅は建築家のエゴの集合体になりかねません。建築を形作るものは法律や構造上の実現はもとより、建築家の想い、住み手の想いにより大きく変わっていくと思います。

建築に携わる私が設計者として望む事を考えたときにふと思い浮かべたものは、私が設計した住宅の前を十数年後に通ったときに、その住宅の中から住む人々の”笑い声”が聞こえてきたならば、その家の建築は”成功”したと確信できると感じました。その住宅に住む人は建築家の事は忘れているかもしれません。しかし、その笑い声には私が設計した住宅がそこに住む人と一体となり、生活の一部として溶け込む空間となっている事を確信できます。そこでは建築家の想いが自然と住む人々と結びつき、それが生活の一部となっているならば、私は良い建築ができたと思うのです。このような建築を作り上げることを目標の一つとして、私の想いも込めながら施主の想いとどれだけ一致、融合して建築が形作られるか楽しみであり、その形を求めるのは長い道のりだと痛感しながら、私は新たな笑い声が聞こえてくる建築を設計していきたいと思います。

 今回の掲載で私の連載は次の著者へと引き継ぐ事になりました。約1年間、皆様には筆下手な私にお付き合いいただきありがとうございました。この「うちなあ点描」が、皆様の夢(住宅)の実現の手助けになることを願っています。